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- 映画「ル・コルビュジェの家」
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2014.08.31 Sundayル・コルビュジエの家
El hombre de al lado / 2009年 / アルゼンチン / 監督:ガストン・ドゥプラット、マリアノ・コーン / コメディ
最高の家に住む嫌なヤツ。
【あらすじ】
近代建築の巨匠ル・コルビュジエが設計した邸宅に住むデザイナー、レオナルド(ラファエル・スプレゲルブルト)。ある日、隣人のビクトル(ダニエル・アラオス)がレオナルド宅に向けて窓を作るためにハンマーで壁を壊し始める。「そんなところに窓を作られたら、ウチが丸見えじゃないか」と揉めます。
【感想】
映画を撮るからには、壮大だったり、感動的だったり、はたまた人を驚愕させようとしたり、何か訴えかけたいものがあるから作るのだと思う。この映画のすごいところは、どこまでもテーマが小さいことである。世界の危機とか、経済格差とか、人種差別とか、一世一代の恋愛とか、一切出ない。ご近所同士の小競り合いがずっと続く。窓を作るか作らないかで二時間揉める。よくこれで映画撮ろうと思ったな。感心しました。
わたしだけではないと思うが、人はちょっと立派なことや恰好いいことをつい言おうとするから駄目である。この映画に出てくるレオナルドとビクトルは、ずーっと窓を作る作らないで対立するのだ。偉い!ものすごく恰好悪い!こうありたいかは別だけど。
左がビクトルさん。えらい目力である。突如、壁を壊す男。何をするかわからない過激さを秘めています。右が主人公のレオナルドさん。壁を壊されて困る人。世界的デザイナーらしいのですが、器の小ささも世界的。小物っぷりがたまらないよ!
壁を壊してご挨拶するビクトル。「今度、ここに窓を作ることにしたからよろしくな!」と宣言。呆然とするレオナルド。レオナルドというのはずるかったり、気弱だったり、自分より劣っていると思う人間には強かったり、人が持つずるさの象徴みたいな人である。
ただ、レオナルドはずるいだけの人でもないように見える。ビクトルが自作したという奇妙なオブジェをプレゼントされた際、迷惑だと思っても一応褒めて受け取る。わたしたちも、友人が自分の好みに合わないお土産やプレゼントをくれたときなど、一応は喜んで受け取る。それは、その場をうまくやり過ごしたいとか、相手を傷つけたくないとか、ずるさではあるものの、少しの優しさも入っているように思う。そんな部分もレオナルドからは感じるのだ。「あるある具合」というんでしょうか、それが絶妙なんですよねえ。
最初、レオナルドは「窓を作られるとプライバシーの侵害になるからやめてくれ」と抗議するが、ビクトルから「部屋が暗いので明かりを採り入れたい」と主張されると、その正当な主張にちょっとひるむ。根はそんなに悪くない人なんだと思う。で、ビクトルは強面で「窓越しではなく直接会って話そう」と言うが、レオナルドはなんとか理由を付けて逃げ回る。このせこさがねえ。共感するわー。
レオナルドは、奥さんには「俺がアイツにビシッと言っといたから」と嘘をついてしまう。ビクトルにすごまれると「いや、僕は正直どうでもいいんだけど、実は奥さんが強情で‥‥」と一転弱気になる。ビクトルが「じゃあ、俺から奥さんに話しとくわ」と言われ「それはいい!それはいいから!」となる情けなさ。ただごとならぬ小物っぷり。ほんと情けなくて共感するわー。わたしの生まれ変わりではないか。
で、ビクトルと奥さんの板挟みになって、一人で車の中で泣くという。なにも泣かんでも。
この図、笑わせにきてるなー。お茶目なビクトルさんである。
やはり、面白顔の人はいいなー。この映画は、序盤、隣人のビクトルの粗暴さが際立っているが、やがてレオナルドの卑怯さが押し出されてくる。最初は怖かったビクトルが、実はいい人なのではないか?となってくる。その逆転が面白かったです。
トラブルの元になっていた窓だけど、結局窓を開けたことが幸運にもレオナルドの娘を救うことに繋がる。この一見マイナスのことがプラスに繋がる逆転もいい。アルゼンチン映画というのは「ボンボン」という犬を巡るコメディしか観たことがないのですが、あれも淡々としたみょうなおかしみがありました。少し変わったコメディが観たい人にはいいかもしれません。
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- 映画「アジョシ」
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2014.08.30 Saturdayアジョシ
아저씨 / 2010年 / 韓国 / 監督:イ・ジョンボム / アクション
こんなに男前なのに‥‥、恐ろしい子!
【あらすじ】
特殊部隊を引退したテシク(ウォンビン)は質屋を営み、世間から隠れるようにひっそりと暮らしていた。ある日、隣に住む少女ソミ(キム・セロン)の母親が犯罪事件に関わり、ソミも拉致されてしまう。テシクはソミを救うため、一人で麻薬組織に乗り込む。
【感想】
映画「レオン」以来の王道の図式「殺し屋+少女」なのです。出たー!と思いましたね、またこのパターンかと。このパターン、失敗するんですよねえ。二匹目のドジョウどころか、もはや二百匹ぐらい探しても見つからないという。ところが、ついに見つけてしまったのである。これ、大成功ではないか。
「殺し屋+少女」というパターンは、二人の繋がりにかかっている。少女ソミ(キム・セロン)の生意気さや図々しさがちょうどいい具合にかわいい。これ以上いくと、ただの問題児になりかねない。万引き常習犯だし、困ったお子である。
ソミは親や友人からも必要とされず、孤独を抱えている。テシクは特殊部隊時代の事件が傷となり、世間と関係を断ち、やはり孤独なのだ。二人には、お互いが孤独であるというかすかな繋がりしかないが、テシクはソミを助けに悪の組織に乗り込む。ソミを見殺しにすることは、テシクが持っている人との繋がりをすべて断つことで、それこそテシクの死なのではないか。
ストーリーはシンプルで、組織に乗り込んだウォンビンが殺しまくるという、本当にそれだけなのです。ただ、さすが韓国だけあって描写がきつい。臓器売買とか拷問場面とか、観ていて「ひぇぇ!」ってなるよ。殺され方も痛い場面が大サービスである。DVD特典についていたインタビューでも、スタッフが「血の色が映えるように床は白にした」と言っていて、さすがです。こだわりの方向がすごい。怖い。
悪の組織の面々が本当に良かったですね。
殺し屋であるラム・ロワン(タナヨン・ウォンタラクン)。角度によっては平井堅さんに似てたのですが、この写真はあんまり似てないですね。黒くて悪い平井堅。
ラム・ロワンとテシクのナイフ格闘場面は、鮮やかでした。ラム・ロワンは殺人マシンなんだけど、ちょっと優しいみたいなのも良かった。ラム・ロワンは本当はテシクと戦う必要はないのだけど、あえてテシクを挑発して戦いに持ち込んでしまう。どっちが最強か決めたいという中学生思考。いいですねえ。死ぬけど。
あと、マンシク兄弟の弟(変な髪形のほう)のいっちゃってる感も実に良い。美女たちをはべらせてクスリをやるという正しい悪人である。悪人はこうあってほしいなあ。悪人の鏡ですよ、こういうの大事。筋肉もすごいのですが、まったくその筋肉が活かされず、やられてしまうのはもったいなかったですね。もうちょい活躍の場を与えてほしかった。
ウォンビンが二階からガラスを割って飛び降りる場面がある。ふつうはガラスを割った場面と着地の場面は別々に撮影されると思いますが、ウォンビンがガラスを割るところを背中から追いかけて、地面に着地するところまでを背後から追いかけて切れ目なく撮っています。これ、どうやってるんだろう。カメラマンも飛び降りているのかなあ。韓国映画ですから、かなり無茶して撮ってそうだけど。面白い映像になっています。
アクションだけでなく、テシクとソミの対面場面も良かったですね。アクションなのにホロッとさせられるのは珍しい体験でした。ちょっと泣かせようとする演出が強すぎるのか、駄菓子屋の場面はやりすぎだと思うのだけど。とてもいいアクション映画でした。ウォンビンが男前というのも、映画にとっていい影響が出ている。ここまで男前で、こんなえげつないことやるの?というギャップ。ウォンビン、恐ろしい子!ファンになりました。
暴力シーンに耐性のある方にはお薦めです。
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- 映画「ムーンライズ・キングダム」
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2014.08.25 Mondayムーンライズ・キングダム
Moonrise Kingdom / 2012年 / アメリカ / 監督:ウェス・アンダーソン / ドラマ
駆け落ちおとぎ話。
【あらすじ】
1960年代アメリカ。少年少女の駆け落ち。追いかける保安官と仲間たち。
【感想】
映画を勝手に分類しておりますが、雰囲気映画に入るかもしれない。ストーリーは重要ではなくて、世界観や雰囲気にどっぷり浸かるのが心地良いという。「かもめ食堂」とか「めがね」とか、ああいった作品が好きな人は好きなのではないか。ちょっと違う気もする。いきなり自信がなくなった。
一応、ストーリーはちゃんとあるんですよね。12歳の少年少女が駆け落ちし、保安官やボーイスカウトの仲間が追いかけていく。うーむ、甘酸っぱい。
でも、やはりどこか現実離れしている。逃げる二人は、追いかけてきたボーイスカウトの男の子をハサミで刺してしまう。普通は人を刺したことに対して心配とか恐怖とか、そういう感情があるはずだけど、浜辺でノリノリでダンスなんか踊っている。反省がないよ。
とても童話的というか、童話の赤ずきんが狼の腹を裂いておばあさんを助ける場面があるけど、そこに血の臭いや残虐さを一切感じないのと同じかもしれない。誰かの夢の話を聞いているような、一応現実世界の話なんだけどもリアリティが欠如していて、それでいてなんとなく楽しいという。伝わりますでしょうか。何を言ってるんだ、おまえは、ということを書いてる気もする。
1960年代の服装、小物、音楽。そんなのが好きな人はいいかも。
ブルース・ウィリス、エドワード・ノートン、ビル・マーレイ、ハーヴェイ・カイテル、ティルダ・スウィントンと、いい役者がたくさん出ている。実に贅沢な使い方ですね。みんなチョロチョロっと出てきます。
- 映画「未来を生きる君たちへ」
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2014.08.22 Friday未来を生きる君たちへ
Hævnen / 2010年 / デンマーク、スウェーデン / 監督:スサンネ・ビア / ドラマ
あらゆる暴力は否定されるべきか。
【あらすじ】
息子と、息子の友達がいじめっ子に復讐。父親は紛争地域で働いており、暴力には絶対反対の立場だったが‥‥。真面目映画ですよ。
【感想】
原題は「復讐」という意味です。邦題の「未来を生きる君たちへ」だと、テーマが少しぼやけてしまうように思いました。
この映画には四つの暴力事件が出てくる。
主人公クリスチャン(右、ウィリアム・ヨンク・ユエルス・ニルセン)。長い名前である。男前、聡明、金持ち、ついでにトラウマ持ちという、アニメに出てきそうな主人公キャラ。でもド短気ちゃんなので要注意。いじめられたら徹底的に復讐するのです。怖い。
クリスチャンの友人エリアス(左、マルクス・リゴード)。気が優しくて温厚だけど、それもあっていじめグループに付け狙われる。クリスチャンは、いじめられているエリアスを助けるために、いじめグループのリーダーを背後から襲い大怪我を負わせてしまう。
クリスチャンは父親から「報復は報復を生むだけ」と諭される。だが「やり返さなかったら、いつまでもいじめられっぱなしだ」と反論する。
父親は良識ある人で「報復は報復を生むだけ」という言葉も正しい。だが、自分が言っていることが、いじめられている子供にとってはなんの役にも立たない建前論であることも自覚している。それが歯切れの悪さに繋がっているのだろう。クリスチャンは親に何も期待していない。クリスチャンの行動は行き過ぎだが、暴力というより自衛に見える。
エリアスの父親アントン(右、ミカエル・パーシュブラント)。子供同士の遊び場のトラブルに巻き込まれて、相手方の親から引っぱたかれます。引っぱたく人は、映画「プッシャー」で麻薬密売人を演じたキム・ボドニア。いやあ、暴力的な役をやらせるとピッタリですなあ。暴力を振るうために生まれてまいりましたー!という感じ。関わりたくない人である。
アントンはアフリカの紛争地域で医師として働いている。そこで起きる残虐な光景にうんざりしているからか、暴力はもうたくさんだということで徹底した非暴力主義になっているのかもしれない。
暴力はよくないといえば、それは一般的には正しく聞こえる。だが自分の身に問題が起きたとき、一般論は力を失う。問題なのは「暴力」と「非暴力」どちらが正しい、というように問題を単純化して考えることではないか。ときとして暴力が有効なこともあり得る。強盗が押し入ってきたとき、街中で刃物を持って暴れている人がいるときは抵抗せざるを得ない。もちろん、抵抗せずに非暴力を貫いて死ぬのも立派なのだ。それは覚悟の問題である。
あらゆる問題は、それぞれ独立しており、暴力が良いとか悪いとかではなく、それぞれに解決方法を考えなければならない。こういう映画を道徳の時間なんかに観たらいいんでないのと思います。わりとモヤモヤする映画ですが、いい映画です。でも、モヤモヤするー。どうすればいいのか。
- A子の防犯対策
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2014.08.18 Monday
▼友人A子はお盆の間、実家に帰っていたという。実家から自分の住むアパートに戻ってきたら、ベランダの窓ガラスが割られており、窓の鍵が開いている。空き巣が入ったかと思い、慌てて部屋の貴重品を確認したが取られた物はない。割れた窓ガラスをよく見ると、空き巣が使うガラス切りのように綺麗に切り取られたのではなく、野球のボール大の穴が開いている。
どうも近所の子供が野球か何かをしていてガラスを割ってしまったようだ。穴と窓の鍵の位置が近いので、穴から指を入れれば、鍵を開けることもできる。ボールを取るために部屋に入ったのかもしれない。取られた物はないが、警察に届けたものか迷っているという。
今回は子供の仕業かもしれないが、一人暮らしの人間というのは空き巣に入られる不気味さがある。帰宅時、ドアを開けるときにわざとドアノブをガチャガチャやって、30秒ぐらいしたら扉を開けるという話を聞いたことがある。空き巣と鉢合わせしないよう、逃げる時間を作ってやるのだ。
A子は一人暮らしを始めたときは、扉を開ける際「今日も人を殺してやったぜ〜。グヘヘヘ」と不気味に笑ってから、部屋の中に入ったという。頭がおかしいのではないか。だが、頭がアレな人ほど怖いものはないからな。空き巣がビビるか知らんけど。それより、近所の人に聞かれるのが心配だ。A子はよく引っ越すが、ひょっとしてこれが原因でご近所トラブルになっていたりして。わたしがご近所さんなら率先して通報する。
で、帰省の際にA子がしている防犯対策は、習字で半紙に何枚も「死」「殺」「呪」「血」などの文字を書き殴り、それを部屋中にばら撒くというものである。狂気を感じる。万が一、空き巣が部屋に入ったとしても、部屋中に散らばった気味の悪い文字を見て恐怖する。「この部屋の人間、異常すぎる!」となる。正解。異常だと思います。
今回、ベランダの窓の鍵が開けられていたにも関わらず、野球ボールは部屋に落ちたままだったという。どういうことだろう。ボールを探しに来た少年たちが、ガラスが割れているのを見つける。謝罪をしようと玄関のチャイムをならすが留守。ベランダ側からこっそり入ってボールを取ってしまおうと、ボールが開けた穴から鍵を開ける。
ベランダの戸を開け、カーテンを開けると、床に「死」「殺」「血」「呪」などの字が書かれた半紙が。そりゃ、ボールを取らずに逃げ出すわ。「うわー!マジでやばい家、見つけたわー!」と、盛り上がっただろう。いいなあ、ひと夏の思い出ができて。仲間に入れてほしい。
ボールが置かれたままであったところをみると、A子の防犯対策は効果があったのかもしれない。「わたし、習字で『呪う』とか書いてるときが、一番生きてるって気がすんのよねー」と目をキラキラさせて言っていた。他に、もっと充実した瞬間がないのか。A子からもらったお土産のお菓子を、友人Nに一個与えてみたところ美味しそうに食べていた。どうやら毒ではない様子。お土産ありがとうございます。
- 映画「25年目の弦楽四重奏」
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2014.08.15 Friday25年目の弦楽四重奏
A Late Quartet / 2012年 / アメリカ / 監督:ヤーロン・ジルバーマン / ドラマ、音楽
良いことも悪いことも、すべては音楽とともに。
【あらすじ】
25年目を迎えた弦楽四重奏団「フーガ」。リーダー格のピーター(クリストファー・ウォーケン、左から二人目)が病気で引退を表明。メンバーたちは動揺し、さまざまな問題が持ち上がります。もめます。
【感想】
人生と音楽の軽妙な対比が多い映画でした。とても教訓めいて説教臭い話が多い。わたしはそういった話が好きなのでいいですが、心温まる話を期待すると「おやっ?」ということになります。だいたいもめておるよ。
この映画ではベートーヴェンの弦楽四重奏曲第14番が頻繁に登場する。ベートーヴェンは全七楽章をアタッカで演奏すべきだと言い遺す。アタッカとは、楽章の境目を切れ目なく演奏するという意味であり、演奏者にとっては大変である。ベートーヴェンさん、また厄介なことを言い遺す。
弦楽四重奏団のリーダー格であるピーター(クリストファー・ウォーケン)。ふだんは殺し屋とか、悪い人をやっていることが多いのですが、今回は物静かで温厚な紳士ですね。銃とかも撃たんし。
ピーターは、この長い楽曲を演奏中、音が狂ったときどうするかを学生たちに問いかける。狂った音のまま演奏を続けるのか、演奏を中断するのか。この長い楽曲とは人生を意味している。その問いに対し、自分で「わかんない」と言うあたり、お茶目なピーターさんである。
ピーターの若い頃の話も良かった。ある高名な音楽家の前で演奏したピーターは、緊張してうまく弾けなかった。だが、その音楽家は「すばらしい」と褒めてくれる。芸術に妥協なき姿勢を持つピーターは、彼が気を遣って褒めてくれたものと思い、その態度を不誠実だと思う。
数年後、その音楽家と親しくなったとき、なぜあのときは褒めたのかと訊く。そうすると彼は、ピーターの弾き方にすばらしい部分があったからだと言う。全体としての完成度はともかくとして、そのすばらしい一部分に感謝をし、批判は何かを言いたがる人にまかせておこう、というようことを言った。
人の欠点には、つい目が行きがちである。欠点ばかりに目を向けて大事なものを見失っているのではないでしょうか、現代人は。などと書けば、新聞の投書欄である。ロクでもない。いろいろ見失っている。見失ったままで生きていく。
芸術家の集団というのは、つくづく大変なものだと思う。物事を熱心にやっていると、どうしても他人のやり方が許せなくなるときがある。以前にいた会社でも、エンジニアは技術の問題ではなく思想の問題で対立していた。技術の問題ならばどちらが正しいかは検証してみれば明らかになる。思想の問題は根深い。思想の違いで会社を去る人間を何人も見てきた。
音楽が原因で対立し、一緒に演奏することで関係が修復する場面も描かれている。情熱のままに弾くことを主張する人物の意見を取り入れて、楽譜を閉じた場面なども良かったですね。
一箇所、気になったのがケンカになったときに相手を殴る場面である。音楽に命をかけている人間が簡単に利き手で人を殴るものなのだろうか。殴るかもしれん。フィリップ・シーモア・ホフマンが怒って殴ります。しかし、この人もけっこうやりたい放題なのである。不倫してるし。うーん、勝手よのう。
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- 映画「サンシャイン2057」
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2014.08.11 Mondayサンシャイン2057
Sunshine / 2007年 / イギリス / 監督:ダニー・ボイル / SF
あちちちちちっ!カネダ、おまえは何を見たのか!
【あらすじ】
太陽の元気がなくなったので太陽に核爆弾を落として復活させに行きます。失敗すると人類が滅亡するよ!
【感想】
原題は「Sunshine」。なんで邦題は「2057」と付け足してしまったのだろうか。有名作品の末尾に年号を足して、有名作品の続編と思わせる手法がある。アルマゲドン2000いくつは有名ですね。アルマゲドン2007〜2013は確認した。毎年、地球が滅びかけている。もうちょっと真面目に滅ぼしたらどうなんだ。あのせいか、タイトル末尾に数字が付くと、限りなくB級映画っぽくなるのだ。
そんなサンシャイン2057ですが、雰囲気が良い。ストーリー自体は本当に良くある話なのだ。太陽の光が弱まって地球が氷に閉ざされる。太陽を復活させるため、人類最後の希望として太陽に向けて宇宙船が飛び立っていく。太陽の大きさからして、核爆弾を落としたとしても、太陽が復活するとは思えないのだけど‥‥、そういうことは気にしたら負けなのです!大丈夫!現実に目を背けて強く生きていきたい!
SFやホラーというジャンルはB級映画の宝庫になっています。B級に転落するかしないか、その境はどこなのだろう。やはり登場人物の知性にかかっているのではないか。なにせB級映画は登場人物がアホである。やたらいちゃつくカップルが出たり、罰当たりな行動をとる若者が出たりする。トラブルを起こしたり、モンスターの凶悪さを引き立たせるための、罰当たり人間が用意される。しかし、その安直さがまずい気がする。
その点、この映画は良かった。無理矢理なアホがいない。いろいろあって、わりと揉めたりするものの、理解できる範疇なのだ。
ダニー・ボイル監督作品で「28日後...」から引き続き登場するキリアン・マーフィーさん。この人って、だいたいちょっと憂鬱そうな役なんだなあ。今回もちょっと憂鬱である。
カネダ艦長(真田広之)も活躍。太陽に魅せられて、ちょっと変な人になりかけるのですが、一応セーフ!踏み止まった。
この映画にはエイリアンは出ない。代わりに太陽に魅せられる者が出る。昔に比べて現代では、神を信じる者が減った。科学が神の殺害に一役買ったのだろう。今より科学が発達した2057年でありながらも、太陽の中に神を見出してしまう。巨大な太陽の圧倒的な迫力を目のあたりにすると、逆らえないのだろう。太陽に超人間的なものを感じて、精神が変容してしまう。へんてこなエイリアンを持ってくるのではなく、こういった敵役の作り方もあるのかと感心しました。
でも、前半の神秘的な雰囲気に比べると後半は少し物足りなかった。変に敵役を出さなくも、良かったのではないかと思ったり。SF好きにはお薦めです。
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- 映画「グランド・マスター / イップ・マン 序章」
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2014.08.04 Mondayグランド・マスター
一代宗帥 / 2013年 / 香港、中国 / 監督:ウォン・カーウァイ / アクション
チャン・ツィイーのための戦い。
【あらすじ】
南北に分かれたカンフーの流派を統一しようと戦います。で、誰が勝ったんだっけ‥‥。
【感想】
詠春拳の達人イップ・マン(トニー・レオン)を軸に、中国の武術家たちの戦いを描く。
スローモーションとワイヤーアクションを駆使した殺陣と、雨や雪の描写がとても美しい。ストーリーは単純なはずなんだけど、よくわからなかったんですよねえ。ボーっと観てしまった。基本的に最後に立ってた人が偉いのだ。間違いない。イップ・マンも「戦いは縦か横だ」と言っている。縦か横というのは、最後に立っているのが勝者で横たわっているのが敗者という意味。
ちょっと持って回った言い回しが多いのだけど、めんどくさい表現が好きな人にはいいかもしれない。わたしだ。私生活でもめんどくさがられてる。ほっといて。
詠春拳の達人イップ・マンが主役ながら、美味しいところは全部チャン・ツィイーが持って行くという。それでいいんか、トニー・レオン。
大活躍のルオメイ(チャン・ツィイー)。父の仇をとるために女として生きることをあきらめる。格闘場面というのは説得力が重要だと思う。体のキレやバランスももちろん大事だけど、やはり体が華奢では説得力がない。
チャン・ツィイーは痩せすぎている。それなのにまったく説得力のなさを感じさせない。まるで舞を舞っているかのよう。完全に制御された動きの美しさが場を支配している。トニー・レオンが主役のはずなのに、最後の戦いを演じているのはチャン・ツィイーなのもうなづける。
武術にすべてを捧げてきたルオメイの言葉が良かった。
「悔いのない人生というけど、嘘だと思う。悔いのない人生なんてつまらない」
この映画はカンフーアクションがすばらしいだけではない。カンフーにすべてを捧げたルオメイの密やかな恋が良かった。面白かったですが、純粋なアクション物を期待していると、ちょっと違うと思うかもしれません。
イップ・マン 序章
葉問 / 2008年 / 香港、中国 / 監督:ウィルソン・イップ / アクション
【あらすじ】
佛山最強と言われる詠春拳の使い手イップ・マン(ドニー・イェン)。性格は温厚、街の人からの人望もあり、戦えば敵なし、ただし奥さんには頭が上がらない。パーフェクト超人ですなあ!ブルース・リーの師匠イップ・マンの半生。
【感想】
「グランド・マスター」同様、イップ・マンが主人公ということで取り上げてみました。純粋に詠春拳の格闘場面を観るのなら、この「イップ・マン 序章」がいいと思います。なにせかっこいい。ただし、こちらは日本兵がかなり残酷な振舞をするので、フィクションとはいえそういうのが駄目な人はやめたほうがいいかも。
カンフー映画でよく見る道具、木人椿(もくじんとう)。発音は「もっやんじょん」というそうです。ドニー・イェンが木人椿を淡々と叩いているだけで、もうかっこいい!ずるい!わたしもやりたい!憧れるわー。
親は商売に成功して大金持ち、働く必要もなくて豪邸で好きな詠春拳を極め、弟子をとる必要すらない。美人の奥さんとかわいい子供に囲まれ、何不自由ない暮らし。人生チョロイわーってな感じのイップ・マンだったが、日本軍が攻めてきてからは困窮する。
これは本筋とはあまり関係ないのかもしれないけど、イップ・マンが働かないんですよねえ。そこがいい。
自宅はとっくに取り上げられ、明日食べる物もない。奥さんが病気で倒れてしまい、おかゆを作って奥さんに食べさせる場面がある。奥さんは遠慮して「これをわたしが食べたら、あなたと子供の分が‥‥」などと遠慮している。そのときにイップ師匠は「大丈夫だ。僕が働く」と言うのだ。ズコーッてなりましたね。おまえ、今まで働いてなかったんかいという。
そういう人なんだけどさあ。しかし、今日のご飯すらない状況である。この道何十年というニートですらバイトを探すだろう。働いたら負けの精神であるよ。病床の奥さんも「働いたことのないあなたが働くなんて!」と心配している。どんな心配の仕方だ。
いろいろありまして日本人空手家十人と戦うことに。この場面はすごかったですねえ。詠春拳のかっこ良さを堪能できます。
ラスボス役の三浦将軍(池内博之)も良かった。池内さんは柔道経験者で空手の経験はなかったそうですが、最後の戦闘場面は良かったですね。ただ、あれは空手とも違うような気がするのだけど。
卑劣な日本人として佐藤大佐ががんばってくれたおかげで、三浦はちゃんとした武人として描かれている。やはり、悪役の人格がひどいと主人公の価値が下がるので、嫌な部分を佐藤大佐が引き受けてくれたのも良かったと思います。詠春拳の魅力が描かれた、カンフー好きにはたまらない作品です。
イップ・マン 序章がGyaoで無料で公開されています。
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- 映画「折れた矢」
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2014.08.03 Sunday折れた矢
Unbowed / 2011年 / 韓国 / 監督:チョン・ジヨン / 裁判
法を守らないのは判事でした‥‥。
【あらすじ】
職場復帰を求めた裁判に負けたキム・ギョンホ(アン・ソンギ)。職場の解雇も不当、裁判も不当、控訴審は棄却。キーッ!となって判事をボウガンで脅してみたよ!
捕まりました。
【感想】
韓国で2007年に実際に起きた石弓事件が基になっている。この「基になっている」というのが厄介で、どれぐらい忠実に再現されているのだろうなあ。もし映画のとおりだとすれば韓国の法曹界は大変なことになっている。証拠は捏造し放題、裁判は判事の独裁で滅茶苦茶である。
犯人の教授キム・ギョンホは、不当な解雇や判決に強く抗議する。頭の回転が速く、隙のない論理を組み立て、判事や検事を攻撃する。納得がいかないことがあれば味方の弁護士だろうが対立を恐れない。前任の弁護士はクビにされてしまう。
弁護士事務所の経営難により、キム・ギョンホの弁護を嫌々引き受けることになったパク・ジュン(左、パク・ウォンサン)。「めんどくさい被告で嫌だなー」と思っています。そうです。ウルトラめんどくさい人です。
教授は、裁判中に判事や検事の告発までしようとする。法の専門家である彼らも、言い返すことができないぐらいにしっかりと法律を読み込んでいる。ビシビシと判事や検事を追い込んでいく法廷劇は小気味良い。あ、あれ、あんまり弁護士ちゃんが役に立ってないような‥‥。がんばれ、弁護士ちゃん!
だが「弁護士はサービス業だから、わたしのサポートをすればいいんだ」と言う教授に、困惑する弁護士。「俺たちってチームじゃないの‥‥」という。弁護士の困りっぷりが面白かった。厄介な依頼人ですよ。この人とうまくやっていくのは大変そう。近くにいたら、あらゆる事を指摘してきそうで怖い。謝るしかない。
被告側は、被害者の血液と、証拠品(被害者の衣服)についた血液が本当に同じものか疑い、血液鑑定を申請する。だが、判事はこんな基本的な事実確認も認めずに一方的に裁判を終結させてしまう。
司法の権威と同僚を守るためなら、捏造上等という姿勢がすごい。検察も医者もグルで犯罪に加担している。韓国は上下関係が厳しいが、そういった事情も犯罪の秘匿に関係しているのだろうか。韓国では約300万人の観客を動員する大ヒットとなったそうです。しかし、こうまで騒がれても、判事は責任追及されなかったのだろうか。不思議。
で、もう一つ不思議なのは教授の態度である。行動の端々から法律を遵守する姿勢が伝わってくる。そんな人がボウガンを持って判事を脅す(裁判は不当だったと自白させるため)というのが解せない。そもそも、脅迫して得た証拠には証拠能力がないと思うのだけれど。それは韓国でも同じだろう。教授がそこに気付かないわけはない。そんなことは関係ないというほど激昂してしまったのだろうか。
あと、韓国映画に独特のコメディ部分が気になる。真面目な話なのだから、真面目に撮ってもいいと思うのだけれど、ちょっとした笑いを差し込んでくる。映画を重くさせないようにという配慮かもしれないが、なんだかよくわからないことになっているよ。これは好みでしょうかね。
DVD特典を観ると、教授役を演じたアン・ソンギは、この仕事をノーギャラで引き受けたという。作品が作品だけに大企業のスポンサーも付かず、低予算作品にせざるを得なかったそうですが結果は大ヒットというのも面白い。韓国人の感想を聞いてみたい作品です。
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